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『江戸の不動産』

書店で何気なく手に取った『江戸の不動産』(安藤優一郞/文春新書)の帯に目が釘付け。「武士も、町人も、農民も不動産取引に夢中だった!」とあるではないですか。

最近の歴史学の成果として、江戸時代はこれまで思われていたよりも自由で、身分を超えて人口流動もみられ、また弱者と思われていた農民もしたたかに経済活動を行っていた……といわれています。

本書はそんな農民、町民、武士、そして大名も積極的に不動産を売買していた江戸時代の実相に迫る一冊です。あまり書くとネタバレになりますが、江戸時代の不動産売買は現代とかわらない資産運用の一環として行われた経済活動だったようです。

たとえば町人地の売買については、現在の不動産仲介業者に相当する「地面売買口入世話人」が物件情報の提供から、売買契約の締結プロセスに至る広範なサービスを提供していたようで、今でいう収益物件に相当する貸地や貸家の売買を盛んに行っていたとか。武士や商人、農民までもがこういった町人地の土地を買い求め、不動産経営に精を出しました。

商人の場合は、このようにして買い求めた不動産の多さが信用を担保していたようで、幕府も「勘定所御用達」などの人選にあたって、江戸でどれほどの不動産を所有しているかを審査基準としていたそうです。

一方、武士も盛んに不動産経営を行っていました。本来幕府からの拝領地は売買できませんが、諸大名は裏技を使って土地の売買を成立させ、年間数十件もの大型土地売買が行われた記録も残っているそうです。これなどは現代の、大企業による不動産開発を彷彿とさせる光景です。

幕府も、今でいう固定資産税のような制度をつくったり、都市計画法などの法律を思わせる仕組みをつくったり……。

江戸の不動産取引を描き出した本書、かなり興味深く読める一冊です。

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